Close and far are you


自然と目が開いた。
あの起きぬけ特有の揺らぐ視界も瞼の重さも感じない。まるで眠ってはいなかったかのように、クリアーな意識が脳みそに充満している。

夢を見ていた。多分。ベッドに押さえ込まれるような感覚に支配されているから。得体の知れない孤独感と焦躁につき動かされて、隣に眠っているはずの人に手をのばした。


ひんやりとしたシーツが虚しく掴まれた。




絡み付く糸を断ち切るように、起き上がる。身体に残る鈍い痛みが、あの人の存在を確かめさせてくれた。でも。


今は何処にいるん…?


「ケンちゃん…?」


部屋を見渡す限りここにいるわけはないのに、返事が欲しくて声に出した。


「なぁ、何処にいるん…?」


ベッドから下りると頭の奥がつんとした。瞬きをするのに変に力が入った。
ぺたぺたとフローリングの床に足が吸い付いて、それだけが音として在った。全部屋を見て回るのに十数分。


何処にもいない。
何処にもおらん。


窓の外に溢れるでっかいビルやらマンションやらには人がぎっしり詰まっているのに。
……どうして俺だけ独りぼっちなん?



「ケンちゃん…」


返事が欲しくて、声に出した。


「なあに?」


コンビニの袋を持った男がドアを開けて返事をくれた。
探していた、人。

すごく情けない顔をしていたんだと思う。どうしたん?と呆れたように笑いながら頭を撫でてくれた。


「寂しかった?」


悪戯な笑みだとわかっていたけど。安心させるケンちゃんのそれには敵わなくて、ちょっとだけふて腐れた気持ちを込めて、ぎゅうと抱き着いた。


「夢、見たんやろ」


俺の髪に指を滑らせながら穏やかに言った。その人以上に他人を知っているのがケンちゃんなんだと思う。
夢の内容なんて覚えてないのに、シャツを握る手が震えて、

また、あの感覚。



でも、大丈夫。今度はそれごと包んでしまうくらい、強く抱きしめてくれる人がいる。
やわらかくて心地いいくらいのハイトーンが、俺の中に入ってくる。


「安心しぃ。俺はここにおるから。安心しぃ」




それは魔法の言葉。
目覚めたときから欲しかった、あなたの言葉。


...