許して☆ティーチャー





そう、これは不可抗力なのだ。



「ケンちゃん、まずいて…」

「俺はもう誰にも止められへんねや」


楽屋には4人。うち1人、睡眠中。
金色の髪が顔にかかったまま、身じろぎもしない。うちのドラマー・ユキヒロ大先生はお休み中である。普段なら放っておく。(起こすと面倒なことなるし)


でも、今日はだめだった。


大先生は雑誌を読んでる途中で睡魔に駆られてしまったため、お行儀よく両手が雑誌に添えられていた。綺麗な指してんねんなー、とは前々から思っていた。


しかし、そのとき目をひいたのは、爪だった。





刷毛が爪を滑る。
みるみるうちに淡い桃色に染まっていく。メイクさんから借りたマニキュアは、かわいらしいその色で大先生の指に華を添えた。始めは小指だけのつもりだったのに、その作業が楽しくて一通り塗り終えてしまった。


数十分後。大先生起床。
ぼんやりと宙を仰ぐこと数分。
肩を鳴らして雑誌に目を落として。


お気づきになられた。



「これ、誰やったの」


抑揚がなさすぎて掴めない。
しん…、とした部屋にひょうひょうとした声が響いた。


「ケンちゃんやで」


ハイド…自分は関わってないのをいいことに!


「…ふーん」


俺には目もくれず、パールの輝きに満ちた爪を見つめる大先生。


怖い。
あの時の俺を恨む。


―しかし、それ以上は言及されず、いつの間にか沈黙が訪れそれぞれの時間が戻っていた。
あれ…?ええんやろか…?素直に喜べへんのやけど。でも墓穴を掘りそうな気もしたから、何も言わずにそっと目を逸らした。


「………よ」


その時呟いた大先生の言葉を、失礼ながらも聞き逃していた。






数日後。
うっかり楽屋で居眠りしてしまった俺の顔には、油性のカラーペンでまぶたへのカラーリングと頬っぺたへの渦巻きが仰々しく飾り立てられていた。


「ど、どういうこと?!」
「言ったでしょ?」


にっこりと気持ち悪いくらいに微笑んだ先生は、楽しそうに、気のせいかもしれないけれど、それはもう楽しそうに続けた。




『覚えてろよ』



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