日曜の朝


明日は一日オフだから、お昼まで寝て、溜まっていたDVDを観て、洗濯しつつ部屋でも掃除しようかな、なんて考えていた昨日だったが、その凄まじく庶民的なスケジュールはのっけから壊されることになる。

計画をしっかりたてた時に限って、その予定は思いっきり狂うものなのだ。



ピーンポーン


朝の8時半に我らがボーカルハイドくんが俺のマンションに現われた。


「おはよ―さん!ユッキー!」

「…………はよ」


なんか、そんな気はしてたけどね…。ボソッと呟いた一言は彼には届かなかったらしく、朝っぱらからハイテンションなハイドくんは「おっじゃましまっ〜す」と俺の横をすり抜けて廊下をどんどん進みリビングに向かって行ってしまった。


……………はぁ

もうしょうがないので顔を洗うことにした。





「なんやコレはっ!!」


………?顔を洗っていたのでよく聞こえなかったがハイドくんが何か言った気がする。


「なんか言った?」


声のした方に行くと、キッチンで座り込んでいるハイドくんとその目の前には扉を開かれた空っぽの冷蔵庫。


「…人ん家の冷蔵庫勝手に開けんなよ…」

「ごめんごめん。朝メシ作ろうと思ったんやけど」


全く悪びれない様子で謝罪した彼は唯一冷蔵庫の中に入っていた飲みかけのコーラのペットボトルを取り出して眺めながら「ユッキーの体型の秘密がわかったわ」と飽きれ気味に独り言を言っている。


「朝メシ何食うつもりやったん?」

「食わねーもん。朝。」

「…………」


あ、怒った。
綺麗な眉を不機嫌そうに歪めて黙ってしまったハイドくんを見つめていると、彼は突然立ち上がって宣言した。


「スーパー行って来る!」

「…はい?」


意味が判らず一瞬フリーズしたが、スーパー行って材料買うて来る!今日は朝メシを作るんやぁ〜!とイノシシの如く玄関に突進して行くハイド君の腕を引いて慌てて止めた。


「ちょっと待て!そんな格好でスーパー行ったらパニックになるだろーが!」


今目の前にいる彼は正しく"ハイド"なのだ。いつも通り綺麗に洋服を着こなしている彼がそのまま街をうろついたら一発でバレて大変なことになるのは目に見えている。


「車で来たから変装の道具とか何も持ってへんのよ」

「スーパー行かないっていう選択肢は?」

「なしです」


………。しょうがない。こうなったら王様ハイドは絶対に言う事を聞かない。 一端俺は寝室に行き、自分のニット帽とサングラスを手にしキッチンに戻った。


「これ、付けてって」


そう言ってハイドくんの前に立ちニット帽を被せてやる。普段自分が被っているものを人に被せるなんて変な感じがした。そして自分より遥かに似合うじゃないかとか思ったが、出来るだけ考えないようにした。 帽子を被せている俺をじっと見てるハイドくん。


「何」


訝しげに尋ねると、いたずらっぽく笑う綺麗な顔。


「いや、キスしたいなぁ思おて」

「……朝メシ食ったらね」


そういうとハイドくんはしっかりと帽子を被り直しながら「言うようになったやん」とまた笑った。


「さーんきゅ。じゃ、いってくるわ」

「…ん」


渡したサングラスをかけながらハイドくんはご機嫌に部屋を後にした。





ゆっくりと道路を歩いて行くハイドくんをマンションのベランダから見守りながら、これじゃあ旦那を見送る嫁だよな…とタバコをふかしながら独りで苦笑する。

でも彼のおかげで久々の朝飯にありつけるわけだし。それ以前に毎日忙しなく働くあのハイドくんが家に来るという、どちらかといえば嬉しいハプニングがあったわけだし。





「まぁ、いっか」




...